家

犬は人につき、猫は家につく。

これは犬と猫の性質を対比した一般論だけど、どこか「依存か、共生か」という問いにも聞こえてくる。この、「家につく」の「家」について。

公衆トイレや試着室、病室…… 壁一枚あるだけで、心の平穏が保たれることの不思議。でもそれは、その外に安全な環境があってこその安心だ。自分の部屋にいても、それは変わらない。自分の部屋、部屋がある家、家の近所、近所を含む街…… わたしたちは幾重にも層を纏いながら、自分の安心を守って生きている。

生活の匂いやリズムが染み込んだ住み慣れた家も、当然ながら引っ越せば自分の居場所ではなくなる。荷物を運び出し、何もなくなった部屋で、使い古した手拭いを絞り、最後の掃除をする。時々ノビなどして顔を上げると、カーテンのなくなった窓から、いつもの風景が見えたりする。
部屋から匂いが消え、色が消え、日常が消える。日常のあったリビングは、ここへ越してきたときのような、よそよそしい場所になっていく。

猫にとっても、「家」は単なる空間ではない。
音や匂いがあって、日々の小さな決まりごとがあって、そこには他の猫や人もいる。それらすべてと共に在りながら、「自分のリズム」「お互いの距離感」を自分で守って、安心できる環境をつくっている。それは共生の意思とも取れ、わたしにはそれが、この日常への愛着のように見える。

犬も猫も人も、愛着を通じて信頼が生まれる。お互いが安心して共にいられたら、それがきっと、幸せな共生なのだと思う。

Back to blog