なんでもない帰り道

なんでもない帰り道

駅を降りると、風が強くなっていた。大粒の雨がときどき頭に落ちてくる。夕方には台風が来る予報だったけど、空はまだ雲行きが怪しいままだ。

街灯の下、足元で葉の影が揺れている。見上げると大きな木が枝ごとしなっていた。吹き荒れる風に合わせて揺れる枝葉の音が、台風の接近を知らせている。大木の枝葉が風に打たれてしなる様が、まるで整体でも受けているようで気持ちよさげに見えた。

周りが動き出し、信号が変わったことに気づく。

向こうから傘をさした男性が歩いてきて、わたしの目の前で女性とすれ違った。バッグから折り畳み傘を取り出す女性。振り返ると、傘を閉じる男性。たしかにそんな具合の雨だななんて思いながら横断歩道を渡る。

風が心地いいし、もう帰り道だし、明日は休みだし、もし急にザーッと来てもこのまま濡れて帰ろうか。開放的な気分のまま、家に着いた。

電気をつけ、鍵を置き、カーテンを閉め、洗面所に向かう途中で、突然ザーッと降り出した。何事かと、猫がカーテンを潜り尻尾を揺らしている。

外に出た瞬間に雨に降られることもあるけれど、今日は中に入った途端に降ってきた。
べつに雨に濡れたくなかったわけでもないのに、ちょっと気分がいい。

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