その31 期待

その31 期待

期待に胸をふくらませる。だけど、人生そんなに都合よくいかないことはもう分かっている。
それなのに、隙あらば「もしかしたら」と思うのはなぜだろう。
期待していたことが叶った時でさえ、その時にはもう必要がなくなっていたり、むしろ戸惑いを覚えることもある。けれど、思いがけずぴたりと歯車が合う瞬間には、「人生は、なんて素晴らしい!」と心の底から思うものだ。

運は努力で引き寄せる、などとよく聞く。
でも、努力とはまったく関係のない場所に幸運が降りてくることもある。
宝くじなんかもそうだ。
宝くじは、買わなければ当たらない。
でも、買っても大抵当たらない。
それでも、買ったら当たるかもしれない。

そして、期待すらしていなかったひとときに、ふと幸運を感じることがある。
たとえば、おおらかな秋の風に吹かれながら、川面に揺れる灯りをぼんやり追っている時。
何かが起こりそうな、運をひとつ使ったような、不思議な心地よさに包まれる。
猫の行動にも、そんな幸運の気配を感じることがよくある。
小さな小さな期待や、不思議な心地よさに包まれた時、わたしたちは夢をみる。
その夢が、人生を面白くしているのは確かだ。

そして人生には、思い切り舵を切る瞬間がある。
わたしだけじゃない。人も、風も、猫も、突然思いもしない動きをすることがある。
けれどそれは、突発的な思いつきではなく、その裏で目まぐるしく感情が動き、見えないところで燃焼を繰り返したその結果だ。
心を開くのも、関係が途切れるのも、出来上がるのも、壊れるのも。
それは“突然”ではなく、静かに積み重ねた時間の果てに訪れる自然な流れなのだと思う。

明日は今日の続きだ。だけど繋ぎ目は0時ではない。日々は一本の線のように続く。
期待は裏切られるものじゃなくて、日々の途中でいずれ訪れる流れを感じるために必要な、心地よい息抜きだ。

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