かっこいいちゃん

かっこいいちゃん

こまは晩年、明け方になると大きな声で鳴いた。話しかけながら撫でてやると落ち着くようだったが、小さくなった身体から、こんな声が出るのかと感心してしまうほどの大きな鳴き声だった。

ほどなくこまがこの世を去り、静かな朝が戻った。もうあの鳴き声で目を覚ますことはないのだなと、時々すこし感傷的になったりもしたが、まもなくふくがそれを引き継いだ。もしかしたら、ふくはこまを偲んでいるのかもしれないなと思ったりもしたが、多分違う。おそらく、こうやると起きる、ごはんが出てくると思っている。ねえちゃんがやらなくなってしまったから、おれがやる! 闘志すら感じるハリのある声で起こしにくるようになった。

ふくはもともとよく喋る。生後3ヶ月でウチに来たふくは、よく食べよく寝てよく遊び、のびのびすくすくと育った。だから一番笑うのはふくの事だし、唯一しっかり叱られるのもふくだ。人のように話しかけていたせいか、「おやつ」や「ごはん」とはっきり発音するようになったが、ふくの中で「ごはん」が一番しっくりきたらしく、そのうち何かを強く訴えかけるときは「ごはん」と鳴くようになって、今に至る。ちなみに「ふく」と言う名前だが、ふくを迎える1ヶ月ほど前に訪れた器屋さんに並んでいた、「ふく」の文字と猫が描かれた福札からとった。

ふくは我が家で唯一のオス猫だ。わんぱくで甘えん坊で、すこし嫉妬深い。他の子がわたしに甘えている時はあからさまに不愉快な表情でじめっと見つめていて、しばらくすると退かしに掛かる。撫でられて、ピューピュー、ゴロゴロと音を鳴らして甘えている姿はいつまで経っても仔猫のようだ。満足いくまで撫でてやりたいが、用事があり早めに切り上げてしまった時などは、しばらく一点を見つめた後で、ぶつぶつ言いながら寝床へ戻っていく。作業がひと段落して、何だか可哀想だったなと様子を見にいくと、大体へそ天で爆睡していたりする。

天真爛漫なようで、とても怖がりで心配性だ。一番怖いのは週一で出てくるハイパワーのキャニスター式掃除機。コードレスの掃除機が近くに来たら猛ダッシュで逃げる。キャニスター式掃除機は、コードを出す音が聞こえた地点でもういなくなっている。わたしはキャニスター式掃除機に絶対的な信頼を寄せているが、毎日づかいは流石に苦なので普段はコードレス掃除機を使っている。ふくも、あんなものが毎日出てきたらたまらないだろうから、それで良しとしている。

そしてもう一つ嫌なことは、わたしたち夫婦の喧嘩だろう。言い争っている時は不安げに佇んでいる。喧嘩が終わるとどちらかの隣に寄り添って朝まで離れないでいる。そしてそれは必ず、その争いにおいて正しかった方の側だ。ちゃんと見ているのだなと思うと、尚更申し訳ない。

今年の525日でふくは7歳になった。人間で言えばもうすっかりおじさんだ。この日々が永遠に続くことはない。いずれ年老いて、身体は小さくなり、毛並みもパサパサしてくるだろう。病気を患うかもしれない。それでもお互いに今のまま穏やかな時間を重ねていられるように、目いっぱいの愛情を伝えていきたい。

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