その55 時間の抜け道

その55 時間の抜け道

時々、旅先で目覚めた時のように、一通りを把握したあとで、夢の続きのような朝を迎えることがある。時間を抜け出した先に広がる、秘め事のような場面を見ている感覚。でもそれは多分気のせいで、生きているかぎり時間は常に、均一に進んでいる。

こまが亡くなる前の晩、こまはテーブルの下でほとんど動けなくなった体を横たえていた。少しずつ眼差しが消えていく生と死のあいだで、その瞳は、時を抜け出してふわり天へと上っていくような、柔らかな光を纏っていた。眼差しとは違う灯をともして、どこか違う場所を見ているような目だった。そしてあの朝、最後の時が徐々に過ぎて、わたしは、時間から解放されていくこまの顔を見ていた。そして生と今際のあいだの、魂がぽっと熱を帯びて空へのぼっていくような時間があることを知った。
こまを見送ったあとで、時間の抜け道って、やっぱりあるのかもしれないなって少し思ったりもする。
時は流れ、悲しみも喜びも、変化を時間が均して、日常は少しずつ姿を変えていく。こまがこの世界にいないことさえも日常になった今を、わたしは生きている。

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