その32 かたちを探す
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ぼーっと木目や壁紙を見つめていると、いろんなかたちが浮かび上がってくる。
形を探して、形を見つけて、それに飽きると、電球の光の残像を向こうの壁に連れていったり、ずっとそこにある時計が何だか分からなくなるまで凝視したりして、時間をやり過ごす。
人は、目に映る景色の中に「知っているかたち」を探そうとする。
そこに文字があれば読み取ろうとするし、車のフロントフェイスは誰かの顔に見えてくる。たくさんの情報が雑多に並んでいるのに、美しいと感じることがある。
整った秩序はないのに、心が「調和」を感じることがある。
わたしたちは無意識のうちに、視線の先で形を拾って、安心や美しさを求めているのかもしれない。
老夫婦が営む町の洋菓子店で、誕生日ケーキを注文したことがある。
プレートに書かれた「ふ」の文字が、まだ仔猫だったふくの姿に似ていた。
おじいちゃんの書いた“ふ”が、足元がおぼつかないのにどうにもわんぱくな、あの頃のふくの動きと重なって見えた。どうやらその偶然の一致は、目に見える形だけではなさそうだった。
形は目に見えるものだけではない。
無作為の形は、あどけない雰囲気であり、柔らかい感触であり、あたたかい温度でもある。映ろう景色は、形となり、現れては消えていく。