その62 理想の部屋

その62 理想の部屋

猫はよく吐く。ふくは移動しながら吐くし、ぬいは吐く直前に目にも止まらぬスピードで瞬間移動する。そのため、事前にものを移動させたり受け皿を用意することが難しい。それからうちの猫はアレルギー持ちが多い。
だから、リビングには簡単に洗って干せるラグマットを敷いている。色も、ホームセンターに売っていたライトグレーの一択だった。皆がくつろぐソファ周りのラグは、部分洗いができるアレルギー対策用のタイルカーペットに変えた。

ふうは家にやってきた当初、なかなかトイレができなかった。入ってはみるものの、そわそわと出てきてしまう。したいのに出来ないといった感じだった。急いでホームセンターに行き、いろんな猫砂を買い、トイレ本体もいくつか買って並べてみると、ふうはすぐに鉱物の砂を敷いたトイレに入って、小さな体に溜まっていたおしっことうんちをいっぱい出してくれた。
安心したのも束の間、今度はその砂が原因と思われるタイミングでふくが咳をするようになってしまった。
幸い、ふうは慣れてくると砂もトイレもこだわりなくできるようになったため、元の砂に変えることができ、ふくの症状もおさまった。
増えすぎたトイレは、3匹がよく使う、新たに導入した大きなスクエア型のものと深さのある丸型のオープントイレを残して、長年使用していた比較的部屋に馴染むタイプのトイレは全て廃棄することになった。

2年前には、おじいちゃん家にあるような座椅子を導入した。リビングでテレビを見る夫の膝に乗ってゴロゴロと喉を鳴らし、やがて眠りに落ちるふく(と毎日それをされたい夫)の日常のためのものだ。伸ばすと全長140cmほどの大きさで、リビングのど真ん中にこの部屋の主役然と置かれている。ペットカメラにも一番の存在感で写っている。すこし帰りが遅くなってしまった時など、帰り道でふとペットカメラを見ると、ふくがその大きな座椅子にポツンと座っていたりするものだから、退かすことなど到底出来ない。

一人暮らしをしている頃は、部屋を飾ることが好きだった。その時々の生活の範囲で自分の好きなものを選んで持ち帰り、それらで彩った部屋で過ごす時間は、わたしに豊かな気持ちをもたらした。いつか、理想の家で暮らしたいと幾度となく思いを巡らせたりした。鮮やかな赤いペルシャ絨毯、収集したオブジェを配置した壁一面の飾り棚、部屋全体を包み込むお気に入りのフレグランス……

そして今、猫が飾り棚に飛び乗って、懐事情と美的感覚を乗せた天秤を前足でガシャンと落とし、目をまんまるくしてこちらを見ている。
猫が飛び回り、モリモリごはんを食べ、人に甘え、そして腹を出して眠るこの部屋は、理想よりも、心地よい。

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