その53 味久の盛り合わせフライ定食

その53 味久の盛り合わせフライ定食

今日のお昼は何を食べようと考えた時、思い浮かべる定番がいくつかある。今日も、そのうちのひとつへ向かった。

店にたどり着き、カウンターに通される。 「いらっしゃい」と、冷たいお茶とおしぼりが置かれ、わたしはいつもの「盛り合わせフライ定食」を注文する。
お茶をいただき一息つく。手をついたテーブルがひんやりとして気持ちがいい。 格子窓の向こうで陽を浴びた暖簾が風に翻っている。
「はい、お待たせ」
レタスの上にたっぷりのキャベツ。サイドにはトマトとレモンが彩りを添え、カラシが脇を引き締める。みずみずしい皿の中央に、エビ、イカ、牡蠣、鯵、鮭。それぞれが衣越しにもそれとわかる個性を放つ、こんがりきつね色の主役陣がどどんと鎮座している。
しばらく皿にフォーカスされた視線がパンフォーカスに移行していく。これこれ!ご飯、しじみの味噌汁、煮物、漬物、ポテトサラダ。わたしはこれを食べにきた。
一つひとつ、一口ひとくち、食べ進める。美味しい。そして楽しい。
きれいに食べ終わることを考えながら食べ進める過程が好きだ。だから定食や焼き魚を食べている時間がとても楽しい。
すべて美味しくいただき、エビと鯵の尻尾を端に揃えて箸を置いた時、 賄いの支度を始めた大将が厨房から顔を出して「お腹いっぱいになったかい?」と微笑んだ。 それはまるでファッションショーのフィナーレのようで、とても素敵な登場だった。
満たされた心で暑さと疲れをリセットして、再び暖簾をくぐり町に出る。 最後に行ったのは、ちょうど今日のような春の終わりの暑い日だった。
6年ほど前に閉店してしまったけれど、こんな日はあの日の風に翻る暖簾を思い出して、あの店の盛り合わせフライ定食をまた食べたいなぁと思う。

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