その25 プロフェッショナル

その25 プロフェッショナル

小さな頃、幼稚園の送迎バスに添乗する先生に憧れた。停留所に止まるたび、慣れた手つきでドアを開閉し、明るく送迎する姿がとてもかっこよく見えて、何度も家の玄関で真似をした記憶がある。
熱を出すと連れて行かれた近所の町医者は、症状を伝えると、それをつらつらと英語(ドイツ語だったのかもしれない)でカルテに認め、看護師さんに処方薬の指示を出した。どこにでもいそうなおじいちゃんだったが、首から下は白衣に聴診器をぶら下げた紛れもないお医者さんで、難しいことをスラスラとするから、やはりただものじゃないなと感心した。
わたしは幼稚園が大嫌いだったし、病院は怖い場所だったから、不安でいっぱいだったはずなのに、そんな最中にも憧れが割り込んでくる幼心が、今思えばおもしろい。

大人になった今でも、プロフェッショナルな仕事をする姿には、あの頃と変わらない眼差しで憧れを抱く。
昔住んでいた街の近くに、驚異的な手際の良さで業務の八割を一人でこなすシェフが営む洋食屋さんがあった。鉄板で提供されるメインに、ライスとスープがついたお手頃なランチが人気で、お店は常に満席。料理の提供から後片付けまでが見事に効率よく進み、気持ちが良いほどスムーズに回転していた。焼き加減、ライス・スープの提供、合間を縫った洗い物——すべてが絶妙のタイミングで行われる神技は、シェフが笑顔で私のもとに料理を置いてくれるまでの“一つのショー”のようで、とてもワクワクした。私は「ハンバーグ&カニクリームコロッケ」と、そのショーを見たさに何度も足を運んだ。(でも、せっかくホールに入っているスタッフをもう少し信じてみたらどうだろう?と思ったりもした)
熟練の技というものは、見ていて気持ちがいい。
素早い判断で商品を順にスキャンして、テトリスのようにかご詰めを終えるスーパーのレジ係。(その後の袋詰めが簡単になるかと言われればそうではないが)
みどりの窓口で、端末のモニターとキーボードを滑らかに操作する、あの小気味よい指さばき。(あの端末はマルスというらしい、ということも調べた)
片手で何本も採血管を取り替えながら、カラッと明るい雑談を繰り出す看護師。流れ作業だけでも大変な仕事をこなしながら、患者の心までケアしてくれる、その仕事ぶりには尊敬しかない。

大人になると、( )内の追記が出てきてしまうが、やっぱり心の端っこに引っかかる出来事や、隙間に芽生える感情は、大筋よりも深い部分を揺さぶる。
そして、そんな部分に響くプロフェッショナルな姿は、なんとも素敵だ。

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