その68 朝のにおい
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用事があり、珍しく早朝に家を出た。
慣れない駅に降り改札を抜けると、通勤と生活のあいだを朝のにおいが吹き抜けていった。
街路樹の葉が光に透けて、開店前の店に朝陽が差し込んでいる。目的地に続く歩道を歩いていると、幼稚園児の頃の記憶がふわっと広がっていった。
田んぼの入り口で送迎バスを待つあいだの、朝露のにおいがする時間。足元の地面を見つめながらいやで仕方ないことをじっと待っている、あの時間。蟻の群れがヨタヨタと砂のついた赤い飴を運んでいく。
ピンク色のバスが、生垣の脇に立つカーブミラーの端に現れて、だんだん大きくなっていく。そしてバスは大人になったわたしの前を通り過ぎ、知らない世界へと走り去っていった。
なにがあんなにも嫌だったのかはもうわからない過去が、時々わたしを揺さぶる。
今と過去を同時に生きながら、未来も一緒に生きているのかもしれない。
「一生懸命に選んで買ってもらった警察官のリカちゃん人形、とっても素敵だね」
地面を見つめてバスを待つ強張った横顔に、腰をかがめて語りかけてみる。