その49 昼寝
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「ちょっとだけ」と、カーテンは開けたままで、眠りにつくまでのまどろみの時間。
ふかふかの布団に滑り込んで勢いよく足を伸ばす。膨らんでいく喜びを、子供のようにバタバタと屈伸して逃がしていく。両手で布団を大きく持ち上げて、バッと手を離すと、遅れて布団がゆっくり降りてきて、空気がふわりと抜けていく。あのおおらかな爽快感に、名前はあるのだろうか。
興奮はいつのまにか幸福感に溶けて、眠りの入り口へ誘う。
布団に首までくるまって目を瞑る。心地よい暖かさと、瞼にすける昼下がりの柔らかい日差しが、懐かしい記憶を連れてくる。 それはいつも、昔よく歩いた通りの、なんでもなかったはずの昼下がりの空気だ。
街の中心部からはバスに乗って家に帰るのだが、その通りにははじまりから終わりまでに全部で4つのバス停があった。その日の気分や疲れ具合で、最初のバス停でバスに乗ることもあれば、通りの最後のバス停を越えて、そのまま歩いて帰ることもあった。
何かの目的で出かけた帰りの、景色でも出来事でもない、ただの帰り道。
そのなんでもない空気が、まどろみの中にふわりと漂っている。